メキシコでは毎日「ご機嫌いかが?」とあいさつし合う。
陶壁画のク今スでも、私は学生に「調子はどうだね?」とたずね廻っていた。
「マンゴーのような気分ですよ」と若者の返事は明るい。
今日の彼女は熟れたマンゴーのように芳しく、美しくてハイライトの状態らしい。
教室はいいムードになって来て、ミステカ族の学生がおだやかに語り出した。
「私のおばあさんはね、時々、今日は風の気分になってるよ。とウットリ云うことがあるの」「私達にとって風はね、先祖が送ってくるやわらか一い「いぶき「なのよ…」
風が民族のと息だとその子は淡々と云ってのけた。
続いてサポテカ族の学生が語った。
ある日母親から「今日はひどい頭痛がする。トナール(守護神)の具合いを見て来ておくれ」と頼まれ、急いで裏山にある彼女のトナールを見舞ってびっくりした事があった。(母の守護神はヤシの木)巨大なヤシの木肌がなたでズタズタにされていたのだ。
サポテカ族は生まれた時、それぞれに守護神(トナール)が定められ、一生自分のトナールと共に助け合って生きてゆく。
トナールは、自然界の動植物や虫などが人間の相方(兄弟以上の分身)として定められる風習で、彼らにとってトナールの病気やケガは共倒れを暗示する一大事件なのだ。
共存する相方を自分の守護神として大切にする知恵は、人と自然がバランスよく生きねばならんことを民族のおきてとする彼らのスピリッツである。
マンゴーの気持ちや風のと息に心を通わせ、ヤシの木の痛みがわかる人々の暮らすところメキシコ…そこへ時々ころがりこんで私は心の舵をとり直す。
眼にみえるもの、みえないもの…地母神、妖精、ガイコツ(すなわち人問)、妖怪たちすべてのものを容認している風土。すべてがおおらか…
私の制作を支えてくれる守護神・トナールはメキシコの風土ばかりではない。日本に住むたくさんの人間妖怪との友情も厚い。
私と知り合ったばっかりに苦労かけてしまった日本のまともな方々にも、この場を借りて、熱く厚く尊敬と感謝を捧げたい。
ビバ生命!ビバ人生!ビバムユルト(死)!